SportsPro OTT に参加して – #2 スポーツのデジタル配信はなぜ海賊行為で狙われるのか

スポーツ動画配信事業者向けカンファレンスでも注目される海賊行為対策

前回のポストではマドリッドで2日間にわたって開かれたSports Pro OTT SUMMIT 2018というスポーツのデジタル動画配信に関わる事業者向けのカンファレンスの概要を紹介しました。

カンファレンスの全32セッションのうち4セッションが海賊行為対策のセッションとなっており、どの事業者も海賊行為には頭を悩まされているようでした。

スポーツファンとデジタル配信の相性の良さ

ここ10年ほどで一般的になってきたインターネットを通じたデジタル配信はスポーツファンととても相性が良いというのは疑いないでしょう。

スポーツの映像配信を考えたとき、従来型のテレビでの映像配信では電波という同時利用に限りのある資源を利用し同じ素材を同時に多数の人々に届けているという仕組み上、サッカーやフィギュアスケートなど人気のあるスポーツを配信する・決勝戦だけ配信するといった最大公約数的な配信にならざるを得ません。

それに対し、インターネットを通じたデジタル型の配信では電波という制約がなくなるため、配信用のデジタル素材さえ用意出来ていればライブ・VOD共にユーザーの好みに応じて制限なく配信していくことができます。例えば、『このチームの試合は初戦から決勝まで全て見たい』『この選手が出ている試合は全て見たい』という要望にも応えていくことができます。

実際、オリンピックのデジタル配信を見てみると、2014年ソチ冬季五輪ではデジタル配信用に収録された素材がのべ60,000時間となり、テレビ用の素材42,000時間を初めて超えました。また、2016年のリオ夏季五輪ではデジタル配信用素材が合計218,000時間となり、2012年のロンドン夏季五輪の81,500時間から2.5倍以上の伸びをみせています。
(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/Olympic_Broadcasting_Services

スポーツのデジタル配信と海賊行為

さて、スポーツとデジタル配信は相性が良いわけですが、デジタル配信には海賊行為がつきまといます。

そもそも、なぜヒトは海賊行為を行ってしまうのでしょうか。

視聴者側の動機は割と明白で、『そこに見たいコンテンツがあるから』『(家計からメディアに対して支出できる金額に限りもあるし)お金を払いたくないから』といった所でしょう。

対して、海賊行為事業者側がなぜ海賊行為を働くかというと、儲かるからです。

次のグラフはイギリスのメディア企業Skyが加入者から得ている収入(緑線)と、イギリスのサッカーリーグPremier Leagueの放送権を得るのに支払っているコスト(青線)を比較したものです。

Sky UKが得ている収入とPremier Leagueへ支払う放送権利料の比較グラフ

Sky UKが得ている収入とPremier Leagueへ支払う放送権利料の比較グラフ − イギリスの情報会社IHS Markitの資料より引用

見ての通り、どの年度でも少なくとも収入の62%以上をPremier Leagueの放映権に充てており、競合企業BTと放映権の落札争いをした2016・2017年は実に83%が放映権に充てられています。

海賊行為事業者は、当然これらの放映権利料を支払わずに優良コンテンツを配信していることになるため、かなり効率よく収益を上げることができてしまいます。

スポーツ放送への海賊行為の変遷

インターネット経由での有料動画配信が一般的でなかった時代、有料のスポーツ放送は主に衛星放送やケーブルテレビを使って行われてきました。
そのような時代の海賊行為と言えば、CASカードの偽造です。

CASカードには、加入者を識別し、暗号化された放送データを正規の加入者に対してだけ復号して視聴可能にするという機能があります。不正B-CASカードは、これらの加入者情報や契約情報を偽装するなどして、有料放送を不正に視聴させる機能を有しています。

不正B-CASカードのスパムメール

不正B-CASカードのスパムメール、たまに届きますよね

 

 

 

インターネット経由での動画配信が一般的になった昨今では、スポーツ放送の海賊行為のされ方も変わってきています。

一番お手軽に行われがちな海賊行為は、試合会場に居る観客がスマホアプリを使って勝手に動画配信するというものです。現在では個人でも手軽にライブ配信を行える場所としてFacebook Live、Instagram、Twitter Periscope、YouTube Liveなどがあり、アプリさえインストールしてしまえばすぐに配信が行える環境が整っています。また、これらのサイトはソーシャルメディアと密接に繋がっているため海賊配信コンテンツへの集客をして広告収入を得るということが比較的容易に行えるという特徴もあります。

もう少し手が込んだ海賊行為としては、テレビに映った映像をビデオカメラで撮影してそれを海賊放送するという方法もあります。家庭のテレビでもHD画質が一般的になり、かつ、ビデオカメラも高性能化した今では現実的な脅威となっています。

テレビ画面の撮影よりも高画質に海賊行為を行う例としては、PC上に映っている映像・音声をそのままスクリーンキャプチャーして海賊放送するという方法があります。スクリーンキャプチャーソフト自体は違法ではなく、ゲーム実況などにも使われているOpen Broadcaster Software (OBS)などが海賊放送に使われていることがあります。デジタルで描画されているデータをそのままキャプチャーするという性質上、元の映像データと比べても海賊放送データの劣化は限りなく少なくなります。

デジタル時代の海賊行為に対抗する方法

さて、このようなデジタル時代への海賊行為にはどのような対抗手段があるのでしょうか。一般的には次の2つの対抗手段が利用されています。

DRMを使う

DRMはDigital Rights Managementの略で、CASカードが担ってきた『正規の契約者に対してだけコンテンツの視聴を可能にする』という機能と同様の機能を担っています。DRMはデジタルデータ自体を暗号化し、それを復号するための鍵を復号ポリシーに従って運用することでコンテンツ保護する機能を提供しています。
復号ポリシーには、「復号はxxxx年xx月まで可能」「復号処理専用のハードウェアが搭載されているときだけ復号可能」「復号処理をする端末には(プロテクションを適用するのが難しい)アナログディスプレイが接続されていないこと」といったようなポリシーを設定することができ、それらのポリシーに合致しない状態ではコンテンツの復号が行えません。
また、利用するDRMによっては、スクリーンキャプチャーソフトの使用を検知したら映像出力を止めるといった機能を持っているものもあります。

 

ウォーターマークを映像信号に乗せる

DRM以外の手段として、ウォーターマークも重要な役割を担っています。

以下の図はスポーツ選手の映像の上に模様状のウォーターマークを載せたものです(意図的に濃く載せています)。模様は有料放送加入者のID毎に一意となっていて、仮に海賊行為による映像流出が確認できた場合、『誰が流出させたのか』『どれぐらいの規模で流出しているのか』ということが模様から特定できます。この2点が明確になっていることで司法機関も動きやすくなり、プロバイダーやCDNに海賊事業者の情報開示を行わせるといった手段を取ることができるようになります。

参考資料:Friend MTSでウォーターマークを意図的に濃く入れた図

参考資料:Friend MTSでウォーターマークを意図的に濃く入れた図。実運用ではもっと薄くウォーターマークを入れる

次のポストではウォーターマークの挿入方法をご紹介します

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