知られざる世界で活躍する台湾ITソフトウェア企業たち

はじめに

台湾のITといえばiPhoneの製造を手がける鴻海精密工業、半導体生産のTSMC、スマホメーカーのHTC、PC関連メーカーのAcerGIGABYTEASUSなど、ハードウェアを製造する企業を思い浮かべると思います。
しかし、台湾ITはハードウェア製造だけでなく、アジア各国に展開しているようなスマホアプリを作っている会社があったり、auのビデオパスを支えるプラットフォームを作っている会社があったりとソフトウェアも強いのです。

今回、2019年3月に台湾のIT企業3社に往訪する機会があったので、それぞれの会社の概要と強みをエンジニアの視点からご紹介します。

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Taipei Video Technology (台北のオンラインビデオエンジニアの勉強会)のメンバーとのショット

スマホライブ配信の雄 − M17 Entertainment

まず1社目は17 Live(イチナナ) というアプリを提供するM17 Entertainment
彼らのオフィスは2004年の完成当時世界一の高さを誇った台北101から歩いて約5分の繁華街にあります。社員は約400名。オフィスは台湾、香港、日本、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナムに構えています。

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17 Liveアプリの紹介画像。ニュースリリースより引用

設立は2015年と若い会社ですが、誰でも無料で簡単にスマホから利用できるライブ配信アプリ「17 Live(イチナナ)」を提供しており、ユーザー数はアジア各国合わせて現在5,000万人以上にも上ります。
実際、24時間どの時間にアプリを立ち上げてもライバー(生放送している演者のこと)が必ず数十人以上は居るぐらいアクティブに使われています。また、App Annieの『2018年動画ストリーミングアプリの消費支出ランキング』によれば、17 Liveは日本での支出ランキング第3位に位置しています。

17 Liveアプリには随所にゲーミフィケーションがちりばめられており、ライバーも視聴者もアプリを毎日継続的に使い続けたくなるように工夫されています。
例えば、ゲーミフィケーションの一つとしてランキングがあります。ライバーと視聴者はランク付けされており、ライバーは視聴者から贈ってもらったギフト数で、視聴者はライバーに贈ったギフト数でランキングされます。

視聴者は1ポイント≒1円でポイントを購入し、そのポイントを使ってイチナナ上のバーチャルなプレゼントを購入します。視聴者はライバーにギフトを贈ることで、ライバーのレベルが上がるなどしてライバーを応援することができます。他の視聴者がギフトを贈ったこともリアルタイムでライブ画面上に表示されるため、視聴者同士でギフトの贈りあい合戦もよく起こっています。

そんなアプリの開発は、台北に居るエンジニアが行っています。

開発者視点からの特徴1 − アプリのコードは世界共通で、地域毎に機能をON/OFFしている

アプリは地域毎カスタマイズしたバイナリを用意して個別にリリースするのではなく、単一のバイナリを全ての地域で利用しているとのこと。
その際に工夫していることとして、アプリ内の特定の機能の有効・無効を切り替えるフラグを持っておき、地域毎に利用できる機能をそのフラグを使って制御しています。

国毎に文化も違うのでウケる機能・ウケない機能は異なってきます。各国にいるプロダクトマネジャーがどのような機能がウケるかを考えて実装に落とし込むためこのような実装にしています。

開発者視点からの特徴2 − RTMPを使ってリアルタイム配信

WebRTCなど最近登場したプロトコルを使ってリアルタイム配信しているかと思いきや、Flashの時代から実績のあるRTMPを使って利用しています。

これにはいくつか理由がありますが、まず彼らが一つ目に挙げたのはレイテンシーが比較的安定していると言うことです。ライバーや視聴者同士でチャットしたりギフトを贈ったりとリアルタイムなコミュニケーションが求められるので、レイテンシーが安定していることはかなり重要なポイントです。

次に、枯れているプロトコルなため、レイテンシーが安定した配信を実現するための研究開発が必要ないこと。WebRTCなど新しいプロトコルを使った場合、まだ枯れていないので意図しない問題に遭遇してそれらの解決に時間がかかると言うことが十分考えられます。そのようなことに時間を使うよりは、枯れて安定したプロトコルを使って、その分空いた時間を新機能やUI開発に使うというのは賢い選択です。

彼らが利用しているライブ配信用ライブラリLFLiveKitは、GitHubで公開されています

LFLiveKit

そのほか

リアルタイム配信で気になるのは不適切コンテンツの監視ですが、意外にもそこは人力で監視をしているとのこと。
人工知能などをつかって機械的に監視する方法だと、どうしても不適切コンテンツが流れてしまった後での遮断になってしまうので、ヒトの経験と勘に頼ってサービスを支えているところが面白かったです。


ストリーミング音楽配信の雄 − KKBOX Group

KKBOXは2004年に台湾で設立されたインターネット音楽配信の会社で、日本では2011年からサービス展開しています。また、2010年にKDDIが出資し主要株主となっています。
元々はインターネットの音楽配信事業から始まりましたが、現在ではライブのチケット販売、SEKAI NO OWARIなどアジア圏のアーティストを招待したKKBOX Music Awardsの開催、アーティスト育成事業など、KKBOXグループ全体で音楽産業のエコシステムに深く関わるまでになっています。

KKBOX brandbook

KKBOX brandbookより。KKBOX Music Awardsは無料で配信されており、台湾からの再生数は110億回にのぼるとのこと。

KKBOXの強み

彼らの強みは2点あります。
一つ目はアジア圏のアーティストを中心に約4,000万曲取りそろえていること。Spotifyなどが競合となりますが、Spotifyは全世界でサービスを提供しているため、どうしてもアジア圏のアーティストのカバーは薄くなりがちです。それに対し、KKBOXはアジアローカルな音楽レーベルとも積極的に提携しアジア圏の楽曲を豊富に取りそろえています。
そのため、無料会員を含めた全ユーザー数は1,000万人、有料会員はアジアで200万人を有しています。

二つ目は音質へのこだわり。全ての楽曲で320kbpsとDTS(ただし、DTSはiOSとAndroidでの再生時のみ)を提供しています。Apple MusicがAAC 256kbpsであるので、データ量的には1.25倍です。

新しい音楽体験の開拓にも積極的です。
Listen with」という取り組みでは、有名人と一緒に音楽を聴くことができ、さらにチャットもできたりと単に音楽を再生するだけでなく、音楽を有名人と一緒に聞くという体験を作り出すことに成功しています。

また、ランニング用のスマートウォッチで有名なGarminに楽曲転送ができたりApple CarPlayやAndroid Autoを通じた自動車内での音楽再生対応など、IoTデバイスへの対応も積極的に進めています。


Online Video Platformの雄 − KKStream

最後に紹介するのはKKBox Groupの中で、B2Bのオンラインビデオプラットフォームを提供するKKStreamという会社。台北にエンジニアが100名以上在籍しています。
名前はあまり知られていないのですが、auのビデオパス裏側はKKStreamのプラットフォームが導入されており、日本でも多くの人が知らず知らずのうちに利用していると思います。

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KKStreamのオフィス外観

技術への積極投資

KKStream内には10名規模のR&Dチームが3チームあり、それぞれが動画配信に関する技術を数ヶ月から数年タームで研究・開発しています。そのような活動の中で出てきた成果に次のようなものがあります。

動画の複雑さに応じてトランスコードのパラメータを調整するPer Title Encoding

一口に動画と言っても、バラエティー番組や実写映像のようにどのピクセルにもピントが合っているような複雑な画もあれば、アメコミのようなベタ塗りで単調な画もあります。画が複雑であればあるほど破綻なく描画するには必要なデータ量も多くなりますが、単調な画に必要以上にデータ量を割り当ててもキレイにはなりません。

従来のトランスコードではどの画にも画一的なトランスコードパラメータを割り当てていたためビットレートの過不足が起きていたのですが、画の中身に応じてパラメータを動的に変えることで必要なデータ量を削減することができます。KKStreamではビデオパスでPer Title Encodingを既に導入しており、2018年11月の時点で次のような実績が出ています。

  • ストリーミング帯域コストが60%減
  • 動画ファイル保管のストレージコストは40%減
  • プレイヤー立ち上げ時間は45%減
  • リバッファリングは50%減
  • それに伴い顧客からの苦情件数が40%減

知覚的な画質を向上させる Perceptual Streaming Engine

これまでのストリーミングでは、プレイヤーで表示した際の画のキレイさを確保するために画面解像度を大きくするという手段が取られがちでした。しかし、解像度を増やすと、破綻のないキレイな描画を行うのに必要なビットレートは当然高くなります。

いたずらに解像度とビットレートを増やさず、小さめの画角に対してビットレートを高めに割り当てることで破綻のない画をプレイヤーにストリーミングし、クライアント側で適宜ストレッチ等してSD(854×480)の解像度でもHD (1280×720)相当に見えるようにする、というコンセプトで開発を進めているのがPerceptual Streaming Engineです。

実際に開発中のPerceptual Streaming Engineのデモを、KKStreamのSr.DirectorであるDrakeがDemuxed 2018で発表しているのが以下の動画です(デモは0:50ぐらいから見られます)。4つの動画のうち、1つは480pで、残り3つが720pですが、見分けがつけられないと思います。

選択と集中という強み

このような先進的な動画配信技術開発に取り組めるのは、どこに注力すると最も価値が出せるかをきちんと考えているからです。

上で述べたもの以外にも、プレミアムコンテンツを流すのにあたって必要となるDRMのライセンスサーバーは自社で開発しています。他社のSaaS型DRMライセンスサーバーを組み込んで使った場合、初期の立ち上げはすぐ行えるというメリットはあるものの、特定機種や特定の条件で問題が起きている場合でも解決に時間がかかったり、場合によっては調査のしようがないので解決不能と言われることもよく起きます。プレミアムコンテンツを扱うプラットフォーマーとしてDRM機能はコアな機能なので、たとえそこで問題が起きたときにも素早く解決出来るように自社で作って持っておく、という選択はさすがだと思います。


まとめ

台湾のIT企業3社をご紹介しました。いずれの会社も、どの分野に注力することが自社の価値を高めるのかを見極めた上で事業を行っており、グローバルマーケットでも十分闘うことのできる独自の強みを持っているのが印象的でした。

 

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