SportsPro OTT に参加して – #4 スポーツ動画配信に対する大規模な海賊行為の実例

スポーツ動画配信事業者向けのイベントSports Pro OTTサミットのセッションの1つ『The dark side of live sports: Investigating large-scale pirate networks』の中で紹介されていた大規模な海賊行為の事例をご紹介します。

どれぐらいの規模で行われているのか

一般的に海賊行為というと、会社組織 v.s. 会社組織ぐらいの規模のものを想像するかと思います。

しかし、本当に大規模な海賊行為は国対国のレベルで行われています。

中東にカタールという国がありますが、カタールは隣国のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなどから反目されていて、最近では2018年12月3日にカタールがOPECから脱退するという発表もなされていました。それらカタールとその隣国間で海賊行為とその戦いが繰り広げられているのです。
カタールと近隣諸国は反目し合っている

beIN(カタール) 対 beoutQ(隣国)

beINは、カタールを拠点とする放送局アルジャジーラからスピンオフする形で2012年にスポーツ専門の放送局としてオープンしました。彼らはMENA地域(中東と北アフリカ)でインターナショナルチャンピオンズカップの独占放映権を持っているなど、MENA地域では有力なスポーツ専門放送局です。

対して、beoutQというサウジアラビアが背後でバックアップしている言われている海賊行為事業者が突如2017年8月に現れました。beoutQではbeINから盗用してきた海賊版コンテンツを視聴することができ、さらに、国という大規模な組織力を生かしてbeoutQ視聴用のセットトップボックスを製造・販売するなどの力の入れようです。

beoutQのセットトップボックスは、勝手にロシアワールドカップのロゴ等を載せている

beoutQのセットトップボックス。化粧箱に勝手にロシアワールドカップのロゴ等を載せている

 

beoutQはIPベースの配信であるため、『ケーブルテレビや衛星の届く範囲』という軛を逃れ、ヨーロッパ全域はもちろんのこと、遠くはアメリカのフロリダでも海賊版コンテンツが視聴できてしまうという有様。
また、スポーツというコンテンツはドラマや映画などに比べて言語の壁が薄いコンテンツであるため、海賊版コンテンツがより広がりやすいという特徴があります。

beoutQが世界各国で使われてしまっているという説明をしている図

beoutQが世界各国で使われてしまっているという説明をしている図

 

海賊版に対して更に海賊行為を働く事業者も

海賊版コンテンツは前述の通りライツホルダーに対して莫大な放映権利料を支払うことなく配信されています。そのため、放送コンテンツに対する保護も正規版コンテンツに比べると弱い状態で配信されていることが起こりがちで、その保護の脆弱さを突いて海賊版コンテンツに対して海賊行為を働き、それを海賊版配信するということも起こっています。

beoutQの場合、南アフリカのStartSatがそのようなことをして、海賊版の被害を更に拡大させていました。

海賊版に海賊行為を働く

海賊版に海賊行為を働く

 

大規模海賊行為で海賊行為を働いている事業者を特定することの難しさ

一般消費者が行うようなカジュアルな海賊行為であれば、ウォーターマークを利用して誰が海賊行為を働いているかを特定し、その契約者IDへの配信を止めるというようなことは割と容易に行えます。

しかし、beoutQのような国がバックについている大規模かつ組織的な海賊行為の場合、次のような難しさがあり、海賊版放送を止めるのには時間がかかります。

  • ウォーターマークが無効化・弱体化されている(そのため、どの契約者IDから漏れているかがわからない)
  • 海賊行為を働くためのハードウェア・ソフトウェアが国をまたいで設置されているので、海外の司法機関と連携して対応に当たる必要があり、足並みの調整に時間がかかる
  • それらの装置を海賊行為事業者がリモート監視している場合があり、警察が踏み込んできたなどといった異変を見つけたらリモートから破壊して証拠隠滅を図られてしまう

実際、beoutQが2017年8月に海賊版配信を始めてから訴訟を起こされるまでには14ヶ月の時間がかかっています。

beoutQのタイムライン

beoutQのタイムライン

 

beoutQはどうやって特定に至ったのか

大規模かつ組織的に海賊行為を働いていたbeoutQはどのように訴訟されるに至ったのでしょうか。

まず、beoutQのWebサイトで利用しているCDNの支払履歴にSelevision(UAEのIPTV事業社)のCEOの名前Raed Khusheimが載っていたというところから足が付きました。次に、さらなる証拠固めのため、beoutQのセットトップボックスの通信パケットを解析したり、セットトップボックスのソフトウェアをリバースエンジニアリングするなどしてSelevisionが深く関わっているというさらなる証拠も見つかりました。

beoutQの証拠について説明する

beoutQにSelevisionが関わっているという証拠について説明している

 

そのような数々の地道な調査を経て、2018年10月にbeINはbeoutQの裏側にいるサウジアラビアに対して10億ドルの訴訟を起こすことができたのでした。

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